トライポフォビア(trypophobia)とは、小さなブツブツ(穴・斑点)の集合体に対して強い恐怖感や嫌悪感を感じる特定恐怖症の一種です。
トライポフォビアを発症するとどのような症状・問題が起こるのでしょうか?
トライポフォビアの症状・原因・治療(対処法)などについて、分かりやすく解説していきます。
- トライポフォビアとは何か?
- トライポフォビアの症状についての説明
- トライポフォビアの原因についての説明
- トライポフォビアの治療・対処法についての説明
- トライポフォビアの恐怖感・嫌悪感の対象になるもの
- トライポフォビアの人の恐怖感を煽る「蓮コラ」
- まとめ
1. トライポフォビアとは何か?
トライポフォビア(trypophobia)とは、小さなブツブツ・ボツボツ(穴や斑点)の集合体に対して、極端に強い恐怖感・嫌悪感を感じる特定恐怖症のことです。
トライポフォビアは日本語では、「集合体恐怖症・斑点恐怖症・繰り返しパターン恐怖症」と呼ばれています。
ブツブツした小さな斑点や穴の集合体を見ると、気持ち悪くてゾッとするといった軽度のトライポフォビアを持つ人は思われているよりも相当に多いのですが、重度でなければ日常生活への支障はほとんどありません。
トライポフォビア(trypophobia)は2005年に作られた造語とされていますが、ギリシャ語の「trypo(punching, drilling or boring holes:パンチャーやドリルなどで開けられた穴)+ギリシャ語のphobia(恐怖症)」を組み合わせたものです。
1-1. トライポフォビアは精神医学の正式な病名ではないが、ブツブツの集合体を嫌う人は多い
トライポフォビアは精神医学(国際的な精神障害の診断基準DSM-5など)で認められた精神疾患の正式な名称ではないのですが、恐怖感や不安感の程度は様々であっても、人間は一般に「小さな穴・斑点の集合体」に対して「不気味で気持ち悪い・ずっと見ていたくない」と思いやすい本能を持っているという説もあります。
トライポフォビアの人が集合体を見ると、自律神経系の症状をはじめ以下で説明する各種の症状が出てくることがあります。
2. トライポフォビアの症状についての説明
「トライポフォビアの症状」には、どのようなものがあるのでしょうか?トライポフォビアの症状について分かりやすく説明していきます。
2-1. ブツブツの集合体が気持ち悪すぎて直視(注視)できない
トライポフォビアの典型的な症状として、「ブツブツの集合体が気持ち悪すぎて直視(注視)できない」ということが上げられます。
トライポフォビアの人は、ブツブツの穴や点が集合したものを知覚することに「生理的な嫌悪感・拒絶感」を感じるので、蜂の巣や蓮の花の花托(かたく)などの集合体を直視できないという症状が出やすいのです。
ブツブツやボツボツの点々が集まっているものを見ていると、トライポフォビアの人は背筋がゾクゾクするような寒気や胸がドキドキしたり肌にかゆみが起こったりするような感覚の違和感を覚えやすいのです。
またブツブツの集合体に対する生理的嫌悪の強さから、瞬間的にチラッと見ることはできても、一定時間以上の注視をすることはできないのです。
2-2. めまい・動悸・呼吸困難などの自律神経系症状
「めまい・動悸・呼吸困難などの自律神経系症状」というのは、トライポフォビアの人によく見られる症状の一つです。
トライポフォビアはブツブツの集合体を反射的に気持ち悪いと感じる「生理反応」に近い部分があり、その症状として交感神経と副交感神経のバランスが崩れる「自律神経系の異常・症状」が出やすくなっています。
代表的な自律神経系の症状として、「めまい・気分の悪さ・吐き気・動悸(胸のドキドキ)・呼吸困難(息苦しさ)・血圧や脈拍の上昇・手の振るえ」などがありますが、これらの症状は自律神経系の生理的反射として起こるので、自分の意思や努力でこれらの身体症状や感覚の違和感を治すことはまずできないのです。
2-3. 長く見続けているとパニックになって失神(気絶)する
トライポフォビアのもっとも重症度の高い症状として、「長く見続けているとパニックになって失神(気絶)する」ということがあります。
重症のトライポフォビアの人は、ブツブツやボツボツの穴(斑点)が集まった対象を長く見続けていると、生理的拒絶感や心理的恐怖感が強くなりすぎて、その場にずっと留まっていることが出来なくなってしまいます。
ブツブツの集合体を長時間にわたって見続けていると、パニック発作が起こって頭の中が真っ白になり、呼吸がしづらくなったり激しいめまいに襲われたりしてしまうのです。
その結果、最悪の場合にはその場で失神(気絶)して意識を失ってしまうケースもあります。
3. トライポフォビアの原因についての説明
「トライポフォビアの原因」には、どのようなものがあるのでしょうか?現代の医学・精神医学でもトライポフォビアの原因ははっきりとは分かっていませんが、トライポフォビアの原因として考えられている演繹的な仮説について説明します。
3-1. トライポフォビアの原因は先天性とも後天性とも言われている
「トライポフォビア(集合体恐怖症・繰り返しパターン恐怖症)」の医学的・科学的な原因は、現時点でははっきりと確認されたり特定されたりしているわけではありません。
トライポフォビアは精神疾患(精神障害)の一種として捉えられているように、「ウイルス・細菌」に感染して発症する感冒・感染症とは違って、何らかの外部にある生物・化学物質が原因になって起こるわけではないからです。
トライポフォビアの原因については、感染源になりそうな異常な形態を持つ生物・モノから自分を守るために、ブツブツの集合体に対して反射的に拒絶・恐怖を覚えて物理的にも遠ざかるようになっているという「先天性の原因」を指摘する仮説があります。
それとは別に、生まれてから後のブツブツの集合体と関係する何らかのトラウマティックな体験が原因となってトライポフォビアが発症したとする「後天性の原因」を指摘する意見もあります。
3-2. ヒョウモンダコなどの斑点・穴が集合した模様を持つ生物を有毒生物と見なしてきた
トライポフォビアの原因として、「斑点・穴が集合した模様を持つ生物」が過去の人類にとって、「死の恐怖をもたらす危険な有毒生物」だったからということが言われています。
トライポフォビアの原因分析をした海外の研究論文では、「トライポフォビアは人類の進化過程で学習することになった『有毒生物(強い毒性を持つ動物)を見ている・その有毒生物に近づいてはいけない』という記憶を呼び起こしていることを示している」と結論づけたものもあります。
強い毒性がある斑点模様がある危険生物の代表例として、その論文では自分の光る斑点模様を自在に変化させられる「ヒョウモンダコ」が挙げられています。
トライポフォビアの原因に、太古の人類の「有毒生物に対するトラウマティックな記憶」が関係している可能性
穴や斑点の規則的なパターンを「有毒生物の模様」と誤認してしまうような過去の人類に共通のトラウマティックな記憶があるというのが、トライポフォビアの原因の一つとされています。
この仮説を科学的に検証する方法としては、「蛇に対する恐怖症を確認する脳科学的な実験」と同じように、PET(陽電子放射断層撮影)などの脳内トポグラフィーを用いた方法があります。
トライポフォビアの原因が、太古の人類が経験した「有毒生物に対する恐怖心・警戒心」にあるのであれば、トライポフォビアの対象となる蓮の花托(実)やスポンジの穴などを見た時に、先天的な本能と関係する「大脳辺縁系(大脳辺縁系の中枢である扁桃体)」がより強く興奮している様子(血流量が増大している様子)が、脳内の画像診断法で確認できるでしょう。
トライポフォビアが本能レベルの生理的反射なら大脳辺縁系(原始的な爬虫類脳)が反応する
大脳辺縁系・扁桃体は爬虫類が持っている「闘争-逃走反応」を司っている原始的な脳の部位で、過去の人類が「トライポフォビアに関連するトラウマ記憶」を共有していたのであれば、ブツブツや穴ぼこの集合体を見た時にこの部位の興奮レベルが著しく高まることになります。
人類(ホモ・サピエンス・サピエンス)には、「トライポフォビア」以上に「蛇恐怖症」を持つ人が多いと言われていますが、蛇恐怖症の人は意識レベルであれこれ考えて恐怖感を感じているのではなく、大脳辺縁系(扁桃体)のレベルで本能的に反応しているとされています。
トライポフォビアの人にも、この蛇恐怖症の人と同じような脳内メカニズムが作動している可能性があるのです。
3-3. 皮膚表面に症状が現れる感染症や皮膚の激しい糜爛(びらん)・損傷を想起させる
トライポフォビアの原因として、「重症の感染症+皮膚の炎症や崩壊(破れ)」を想起させるからということがあります。
ブツブツとした斑点が規則的に密集している様子、あるいは小さな穴が規則的に無数に集合している刺激は、人間にとっては「皮膚表面が激しく変形・異常を起こしている状態」として知覚されやすいというのです。
皮膚の表面が多少荒れるくらいであれば、ちょっとした皮膚炎や肌荒れの認識にしかなりませんが、無数の小さな穴がボコボコと規則的に開いている様子は「何らかの命に関わる感染症」や「皮膚が内部から微生物に食い破られているひどい症状(人食いバクテリアの感染症による糜爛など)」をイメージさせやすいのです。
無数のブツブツや小さな穴の集合は深刻な感染症・免疫疾患をイメージさせている可能性がある
人間は一般的に皮膚がなめらかで綺麗な状態を好む(そういった綺麗な肌を健康な状態と判断する)本能を備えていて、極端に皮膚がブツブツになっていたり無数の穴が開いていたりする状態を、「致命的な感染症・免疫疾患を発症した危険な状態」と判断しやすいのです。
自分がそんなひどい皮膚の状態になりたくないという恐怖感・嫌悪感と、もしかしたら自分にも感染する何らかのウイルス・細菌が皮膚の病変部に見える場所にいるのではないかという警戒感からトライポフォビアが発症しやすくなります。
4. トライポフォビアの治療・対処法についての説明
トライポフォビアに悩んでいる人は、その症状や問題を治すことができるのでしょうか?トライポフォビアの集合体恐怖症に対して、有効と思われる治療・対処法について紹介していきます。
4-1. できるだけブツブツ・小さな穴(斑点)の集合体を視界に入れない
トライポフォビアの無難な副作用の少ない治療・対処法として、「できるだけブツブツ・小さな穴(斑点)の集合体を視界に入れない」ということが上げられます。
トライポフォビアには医学的・科学的に確立された単一の治療法はありませんから、無難な対処法として、「嫌悪感・拒絶感・恐怖感を感じる小さなツブツブや穴ぼこの集合体」をできるだけ視界に入れずに見ないようにするというやり方があります。
ブツブツしたものや小さな穴(斑点)の集合体をできるだけ見ないようにするという消極的な対処法は抜本的な解決にはなりませんが、日常生活における支障・問題はかなり減ってくるでしょう。
4-2. 段階的に集合体の知覚刺激に慣れていく
「段階的に集合体の知覚刺激に慣れていく」ということが、トライポフォビアの積極的な治療・対処法になってきます。
トライポフォビアに対する常識的な対処法・治療法として、行動療法の「系統的脱感作(けいとうてきだつかんさ)」のように「弱い刺激から強い刺激へと段階的に慣れていくという方法」があります。
トライポフォビアは「小さな穴・斑点の規則正しい無数の集合体」に対して恐怖感や嫌悪感を感じやすいので、初めは「大きめの穴や斑点+数の少ない穴や斑点」から慣れていって、「蜂の巣・蓮の実」といった本格的なトライポフォビアの恐怖対象を見ることにも少しずつ挑戦してみると良いでしょう。
4-3. 行動療法のエクスポージャー療法(暴露療法)
トライポフォビアにもっとも効果があるとされる治療・対処法は、「行動療法のエクスポージャー療法(暴露療法)」になります。
行動療法のエクスポージャー療法(暴露療法)とは、簡単に言えば「自分が恐怖や苦痛を感じている対象」に無理やりにでも直面して、その苦痛な刺激にできるだけ早く慣れていこうとするものです。
エクスポージャー療法(暴露療法)は、恐怖症や全般性不安障害、パニック障害などの治療法としてエビデンス(客観的証拠)が確立しているので、初めは苦痛であっても信頼できる治療者・家族・親友などと一緒に、トライポフォビアの対象になる集合体に暴露していくことで症状は軽減しやすくなります。
5. トライポフォビアの恐怖感・嫌悪感の対象になるもの
トライポフォビアはブツブツした穴や斑点の集合体に対して、非常に強い恐怖や嫌悪を感じる単一恐怖症です。
トライポフォビアの恐怖感・嫌悪感の対象になる具体的なものには、どのようなものがあるのでしょうか?
5-1. 蓮の花托(ハスのかたく)
トライポフォビアの恐怖感・嫌悪感の対象になるものとして、「蓮の花托(ハスのかたく)」があります。
「花托(かたく)というのは、被子植物の花において花葉 (かよう) がつく軸の部分のことですが、蓮(ハス)では「蓮の実が収納されている穴がある部分」と考えると分かりやすいでしょう。
トライポフォビアの恐怖の対象になる代表的なものとして、「蓮の花托・果実」が挙げられるのは伊達ではなく、一般の人が見てもかなりの生理的な気持ち悪さ・嫌悪感を感じやすいものになっています。
個別の穴ぼこの中に、一つずつ蓮の果実が入り込んでいるという構図も気持ち悪い感覚を喚起しやすいのです。
5-2. スポンジの小さな穴・石鹸の泡・飲み物の泡
「スポンジの小さな穴+石鹸の泡+飲み物の泡」といったボコボコと立ち上がってくる数え切れないくらいの気泡が、トライポフォビアの恐怖感・嫌悪感の対象になってくることがあります。
無数のツブツブで構成されている「小さな泡・気泡」というのも、トライポフォビアの人が嫌悪感・恐怖感を感じる代表的なものです。
スポンジを間近で見れば無数の穴がランダムに開いていて、石鹸や飲み物から出てくる泡も近くで見れば無数のツブツブで出来ています。
5-3. 蜂の巣
トライポフォビアの恐怖感・嫌悪感の対象になるものとして、「蜂の巣」があります。
「蜂の巣」はハチが生殖本能に導かれて作る幾何学的な芸術作品のようなものですが、近い距離で見ると「無数の六角形の穴」が開いていてトライポフォビアの人にとってはかなりの圧迫感や嫌悪感の対象になりやすいのです。
蜂の巣はその六角形の穴の中に、蜂(ハチ)や蜂の子がもぞもぞと出たり入ったりしている様子も不快感・恐怖感の原因になりやすいのです。
普段は滅多に、実物の蜂の巣を目にする機会はありませんが、インターネット画像などで見かけて気分が悪くなったという人もいます。
5-4. いちごの種のツブツブ・小さな木の実の集合・ドングリキツツキ
トライポフォビアの恐怖感・嫌悪感の対象になるものとして、「いちごの種のツブツブ・小さな木の実の集合」があります。
トライポフォビアの対象物としてはショックは小さいのですが、いちごを拡大した時に見える「無数のツブツブの種」は、生理的に気持ち悪く感じるという人が一定数います。
ラズベリーとかドングリとかの真ん丸な木の実を並べたような図式も、トライポフォビアの人にとっては嫌悪感を感じやすいものであり、特に「ドングリキツツキ」がドングリを貯蔵するために、木の幹に開けた無数の穴(その穴の中にドングリをはめ込んでいる)を気持ち悪く感じる人は多いのです。
6. トライポフォビアの人の恐怖感を煽る「蓮コラ」
トライポフォビアの人の恐怖感を意図的に煽るために制作されたウェブ上のコラージュ(合成写真・合成画像)として、「蓮コラ(はすコラ)」と呼ばれるものがあります。
蓮コラとはどんなコラージュのことを意味しているのでしょうか?ウェブ上で「精神的ブラクラ」として悪用されることもある「蓮コラ」について分かりやすく説明していきます。
6-1. 「蓮コラ(はすコラ)」とは何か?
「蓮コラ(はすコラ)」は、2003年頃に日本で作成されたコラージュ(合成画像)で、「ショッキングな画像+気持ち悪い印象を受ける画像」を人に見せて驚かせることが目的だったと言われています。
蓮コラとは「蓮の果実・花托の凸凹」を人体の皮膚の一部や全体にコラージュ(合成)した画像のことであり、身体・皮膚の表面に「不自然かつ規則的な穴」がたくさん開いているような外見をしています。
この蓮コラを見た人の大半は、「生理的・本能的な気持ち悪さ」を感じると言われていて、トライポフォビアの人でなくても「蓮コラに対する生理的な嫌悪感・拒絶感」や「できるだけ蓮コラを視界に入れたくないという気持ち」を感じることは多いのです。
一番最初に投稿されたのは、女性に蓮の実を合成したコラージュでしたが、その後にその蓮コラにインスパイアされた様々な別種・亜種の蓮コラ(掲示板用のアスキーアートも)が作成されています。
6-2. 「精神的ブラクラ」の蓮コラでトライポフォビアの恐怖感が誘発される
蓮の実(花托)の無数の穴を、人体にコラージュして斑状・穴状の模様を付けたコラージュ画像が「蓮コラ」です。
蓮コラは「精神的に有害な刺激(不快感・嫌悪感・恐怖感・緊張感など)」を与える「精神的ブラクラ」の一種として認識されていますが、トライポフォビアがある人にとっては特に、「精神的な苦痛や恐れのダメージ」が強くなってしまうのです。
精神的ブラクラの蓮コラを見ていると、自分自身の身体に穴が開いているかのような恐怖感・嫌悪感を感じやすく、皮膚表面の生理的な不快感・違和感を生じて気分が悪くなってしまうことも多いのです。
2003年には韓国で友人にふざけて蓮コラを送りつけた人が逮捕された事例もあるということで、「精神的ブラクラ」としてトライポフォビアを悪化させる蓮コラを作成・頒布することはやめておいた方がいいでしょう。
まとめ
トライポフォビア(集合体恐怖症)について徹底的に解説してきましたが、トライポフォビアはブツブツ(ボツボツ)の穴や斑点、凸凹の集合体に対して恐怖や苦痛を感じる恐怖症の一種です。
トライポフォビアの対象になる代表的なものには、「蓮の花托や実・蜂の巣・いちごのツブツブ・ドングリキツツキが作る穴・石鹸の泡・蓮コラ」などがあります。
「トライポフォビアの症状・原因・対処法」について詳しく調べたい時には、この記事を参照してみて下さい。
3. トライポフォビアの原因についての説明
「トライポフォビアの原因」には、どのようなものがあるのでしょうか?現代の医学・精神医学でもトライポフォビアの原因ははっきりとは分かっていませんが、トライポフォビアの原因として考えられている演繹的な仮説について説明します。
3-1. トライポフォビアの原因は先天性とも後天性とも言われている
「トライポフォビア(集合体恐怖症・繰り返しパターン恐怖症)」の医学的・科学的な原因は、現時点でははっきりと確認されたり特定されたりしているわけではありません。
トライポフォビアは精神疾患(精神障害)の一種として捉えられているように、「ウイルス・細菌」に感染して発症する感冒・感染症とは違って、何らかの外部にある生物・化学物質が原因になって起こるわけではないからです。
トライポフォビアの原因については、感染源になりそうな異常な形態を持つ生物・モノから自分を守るために、ブツブツの集合体に対して反射的に拒絶・恐怖を覚えて物理的にも遠ざかるようになっているという「先天性の原因」を指摘する仮説があります。
それとは別に、生まれてから後のブツブツの集合体と関係する何らかのトラウマティックな体験が原因となってトライポフォビアが発症したとする「後天性の原因」を指摘する意見もあります。
3-2. ヒョウモンダコなどの斑点・穴が集合した模様を持つ生物を有毒生物と見なしてきた
トライポフォビアの原因として、「斑点・穴が集合した模様を持つ生物」が過去の人類にとって、「死の恐怖をもたらす危険な有毒生物」だったからということが言われています。
トライポフォビアの原因分析をした海外の研究論文では、「トライポフォビアは人類の進化過程で学習することになった『有毒生物(強い毒性を持つ動物)を見ている・その有毒生物に近づいてはいけない』という記憶を呼び起こしていることを示している」と結論づけたものもあります。
強い毒性がある斑点模様がある危険生物の代表例として、その論文では自分の光る斑点模様を自在に変化させられる「ヒョウモンダコ」が挙げられています。
トライポフォビアの原因に、太古の人類の「有毒生物に対するトラウマティックな記憶」が関係している可能性
穴や斑点の規則的なパターンを「有毒生物の模様」と誤認してしまうような過去の人類に共通のトラウマティックな記憶があるというのが、トライポフォビアの原因の一つとされています。
この仮説を科学的に検証する方法としては、「蛇に対する恐怖症を確認する脳科学的な実験」と同じように、PET(陽電子放射断層撮影)などの脳内トポグラフィーを用いた方法があります。
トライポフォビアの原因が、太古の人類が経験した「有毒生物に対する恐怖心・警戒心」にあるのであれば、トライポフォビアの対象となる蓮の花托(実)やスポンジの穴などを見た時に、先天的な本能と関係する「大脳辺縁系(大脳辺縁系の中枢である扁桃体)」がより強く興奮している様子(血流量が増大している様子)が、脳内の画像診断法で確認できるでしょう。
トライポフォビアが本能レベルの生理的反射なら大脳辺縁系(原始的な爬虫類脳)が反応する
大脳辺縁系・扁桃体は爬虫類が持っている「闘争-逃走反応」を司っている原始的な脳の部位で、過去の人類が「トライポフォビアに関連するトラウマ記憶」を共有していたのであれば、ブツブツや穴ぼこの集合体を見た時にこの部位の興奮レベルが著しく高まることになります。
人類(ホモ・サピエンス・サピエンス)には、「トライポフォビア」以上に「蛇恐怖症」を持つ人が多いと言われていますが、蛇恐怖症の人は意識レベルであれこれ考えて恐怖感を感じているのではなく、大脳辺縁系(扁桃体)のレベルで本能的に反応しているとされています。
トライポフォビアの人にも、この蛇恐怖症の人と同じような脳内メカニズムが作動している可能性があるのです。
3-3. 皮膚表面に症状が現れる感染症や皮膚の激しい糜爛(びらん)・損傷を想起させる
トライポフォビアの原因として、「重症の感染症+皮膚の炎症や崩壊(破れ)」を想起させるからということがあります。
ブツブツとした斑点が規則的に密集している様子、あるいは小さな穴が規則的に無数に集合している刺激は、人間にとっては「皮膚表面が激しく変形・異常を起こしている状態」として知覚されやすいというのです。
皮膚の表面が多少荒れるくらいであれば、ちょっとした皮膚炎や肌荒れの認識にしかなりませんが、無数の小さな穴がボコボコと規則的に開いている様子は「何らかの命に関わる感染症」や「皮膚が内部から微生物に食い破られているひどい症状(人食いバクテリアの感染症による糜爛など)」をイメージさせやすいのです。
無数のブツブツや小さな穴の集合は深刻な感染症・免疫疾患をイメージさせている可能性がある
人間は一般的に皮膚がなめらかで綺麗な状態を好む(そういった綺麗な肌を健康な状態と判断する)本能を備えていて、極端に皮膚がブツブツになっていたり無数の穴が開いていたりする状態を、「致命的な感染症・免疫疾患を発症した危険な状態」と判断しやすいのです。
自分がそんなひどい皮膚の状態になりたくないという恐怖感・嫌悪感と、もしかしたら自分にも感染する何らかのウイルス・細菌が皮膚の病変部に見える場所にいるのではないかという警戒感からトライポフォビアが発症しやすくなります。
4. トライポフォビアの治療・対処法についての説明
トライポフォビアに悩んでいる人は、その症状や問題を治すことができるのでしょうか?トライポフォビアの集合体恐怖症に対して、有効と思われる治療・対処法について紹介していきます。
4-1. できるだけブツブツ・小さな穴(斑点)の集合体を視界に入れない
トライポフォビアの無難な副作用の少ない治療・対処法として、「できるだけブツブツ・小さな穴(斑点)の集合体を視界に入れない」ということが上げられます。
トライポフォビアには医学的・科学的に確立された単一の治療法はありませんから、無難な対処法として、「嫌悪感・拒絶感・恐怖感を感じる小さなツブツブや穴ぼこの集合体」をできるだけ視界に入れずに見ないようにするというやり方があります。
ブツブツしたものや小さな穴(斑点)の集合体をできるだけ見ないようにするという消極的な対処法は抜本的な解決にはなりませんが、日常生活における支障・問題はかなり減ってくるでしょう。
4-2. 段階的に集合体の知覚刺激に慣れていく
「段階的に集合体の知覚刺激に慣れていく」ということが、トライポフォビアの積極的な治療・対処法になってきます。
トライポフォビアに対する常識的な対処法・治療法として、行動療法の「系統的脱感作(けいとうてきだつかんさ)」のように「弱い刺激から強い刺激へと段階的に慣れていくという方法」があります。
トライポフォビアは「小さな穴・斑点の規則正しい無数の集合体」に対して恐怖感や嫌悪感を感じやすいので、初めは「大きめの穴や斑点+数の少ない穴や斑点」から慣れていって、「蜂の巣・蓮の実」といった本格的なトライポフォビアの恐怖対象を見ることにも少しずつ挑戦してみると良いでしょう。
4-3. 行動療法のエクスポージャー療法(暴露療法)
トライポフォビアにもっとも効果があるとされる治療・対処法は、「行動療法のエクスポージャー療法(暴露療法)」になります。
行動療法のエクスポージャー療法(暴露療法)とは、簡単に言えば「自分が恐怖や苦痛を感じている対象」に無理やりにでも直面して、その苦痛な刺激にできるだけ早く慣れていこうとするものです。
エクスポージャー療法(暴露療法)は、恐怖症や全般性不安障害、パニック障害などの治療法としてエビデンス(客観的証拠)が確立しているので、初めは苦痛であっても信頼できる治療者・家族・親友などと一緒に、トライポフォビアの対象になる集合体に暴露していくことで症状は軽減しやすくなります。
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