山伏(やまぶし)とは、山野に籠って厳しい修行を行っている「修験道(しゅげんどう)の行者」のことです。
山伏は霊山に籠って生命を削るような修行や鍛錬を行うことによって、「超自然的な超能力・霊力」を得られると考えられています。
山伏はその霊力を活かして、人々のために「加持祈祷(かじきとう)・呪術」などを行っていて「験者(げんじゃ)」とも呼ばれます。
この記事では、「山伏についての知識・情報」や「山伏の修行体験のスポット」について詳しく説明していきます。
- 山伏とは何か?
- 山伏になるには?
- 山伏はどんな修行をしているの?
- 山伏に給料や収入はある?
- 山伏と天狗の関係は?
- 山伏は女性でもなれる?
- 山伏の修行体験ができるスポット
- まとめ
1. 山伏とは何か?
山岳信仰と修験道を背景に持つ「山伏」とはどのような存在なのでしょうか?「山伏の歴史・目的・根本道場・格好・道具」から、分かりやすく説明します。
1-1. 山伏の歴史と目的
山伏とは、平安時代中期に生じた山岳信仰を原点とする「修験道の行者(修験者)」のことです。
山伏は霊山の山野に起居して、「超自然的な超能力・霊力」を高めたり「自然や神と人をつなげる知識・六根清浄(感覚・意識の清らかさ)」を得ることを目的にしています。
江戸時代までは山伏は人々のために「病気平癒・雨乞い・悪霊払いなどの加持祈祷(お祈り)」をすることが多かったのです。
近代化を進める明治時代に修験道は迷信としていったん禁止されましたが、戦後再び、霊山に籠って修行をする山伏が増え始めています。
山伏は山々を踏破して山野で寝起きしながら厳しい難行苦行を行い、自分の心身を鍛え抜きながら、霊山・山岳が持つ「大自然の霊力」を身に付けることを目指しています。
1-2. 山伏の根本道場と独特な格好・見かけ
平安時代に生まれたとされる山伏は、はじめ天台系の「聖護院」と真言系の「醍醐寺三宝院」において組織化されました。
山伏には出家者だけではなく妻帯有髪の在家の修行者もいます。
初期の修験道・山伏集団の根本道場として有名だったのは、「吉野山・金峯山・大峰山・熊野地方の一帯」でした。
根本道場の霊山を中心とする「霊山詣(れいざんもうで)」をするために「講(山伏集団)」が組織されていき、山伏は「全国通行の自由」が保障されていました。
山伏の格好は、頭巾(ときん)と呼ぶ多角形の小さな帽子をつけ、手に錫杖(しゃくじょう)という金属製の杖を持つ独特なもので、山の中で見かければすぐに山伏であることが認識できるのです。
1-3. 山伏の16道具
山伏の独特の格好・服装の見た目を生み出しているのが、以下に記している「山伏の16道具」と呼ばれているものです。
山伏の16道具というのは、「頭襟(頭巾・ときん)、鈴懸(篠懸・すずかけ) 、結袈裟(ゆいげさ、不動袈裟) 、最多角念珠(さいたかくねんじゅ)、法螺(ほら)、斑蓋(檜笠・ひがさ) 、錫杖(しゃくじょう) 、笈(おい、箱笈) 、肩箱(かたばこ)、金剛杖(こんごうづえ)、引敷(ひきじき)、脚半(きゃはん)、八目の草鞋(やつめのわらじ)、檜扇(ひおうぎ)、柴打(しばうち)、走縄(はしりなわ、螺緒)」のことを指しています。
2. 山伏になるには?
山伏になるために特別な資格・免許の許認可が必要なわけではありませんが、山伏は一般的に「神仏習合」の影響が残っている神社仏閣に所属する僧侶・神職がなることが多く、そのツテを頼って講に参加するのが早道です。
山伏は出家しなくても在家信者(一般的な社会人)でもなることができますが、山伏の多くは「講(こう)」と呼ばれる山伏集団に属しています。
山伏の講の多くは、「真言宗系当山派の醍醐寺」か「天台宗系本山派の聖護院」のどちらかに分類されていますが、それ以外にも全国各地に無数の講があるので、山伏になりたい場合はどこかの講への参加を希望して初めは先輩について入山するのが良いでしょう。
3. 山伏はどんな修行をしているの?
山伏は実際には、どのような修行をしているのでしょうか?
3-1. 断食・水断ち
山伏は一定以上の期間にわたって一切の飲食物を摂取しない「断食」の修行をすることが多く、修験者によっては飢えと渇きに耐えられるギリギリの段階にまでストイックに自分を追い込んでいきます。
苦行である断食の修行を徹底的に自分を追い込んで行うことによって、「食物となる生命(動植物)に対する感謝の念」が改めて湧き上がり、「五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)の働き」も研ぎ澄まされて、悟りを開きやすくなる(霊力を授かりやすくなる)という効果に期待することができます。
3-2. 滝打ち・滝行
山伏は凍るように寒い冬の期間であっても、激しく水が流れ落ちる滝の下に白装束をまとって我が身を置いて、「滝打ち」の修行を行います。
滝打ちの荒行は、山岳信仰の修行の代表的なものですが、冷たい清浄な水で自分の身体を打つことで、「煩悩(様々な欲望)・執着を綺麗に払い落とす効果」があるとされています。
滝打ちの厳しい修行は、冬場には相当に身にこたえる危険なものですが、「六根清浄を目指す滝行の修験」は古来から山伏に重視されている修行方法です。
3-3. 火渡り
山伏はまだ燃えている炭・灰の上を、火傷を覚悟して歩いていく「火渡り」の苦行も行います。
火渡りは日本国内の神事だけではなく、アフリカのヒンドゥー教徒やアメリカの旧インディアン(ネイティブアメリカン)、ギリシャ・ブルガリアの正教徒の宗教儀礼としても行われています。
火渡りの修行・神事には「俗世間における煩悩(欲望)・執着を焼き尽くす」という意味があり、さらに「悪霊退散・無病息災のご利益」にもつながるとされています。
燃えている炭の上を歩く修行は、一見すると火傷を負いそうなのですが、実際には「比熱容量・熱伝導率」などの物理学的要因によってまず火傷をすることはありません。
4. 山伏に給料や収入はある?
現代の山伏・修験道では、「サラリーマン山伏」という造語があることから、山伏になるとサラリーマンのように給料・収入が得られるという誤解をされやすいのですが、現代における山伏は「給料(収入)を得るための職業」ではありません。
ただし、山伏になる人の中には神仏混合の影響を受けた「寺院の住職・神社の神職」も多いので、宗教法人として「檀家のお布施・年末年始のお賽銭・厄払いや祈祷・葬式代(法要代)」などを収入源としている山伏もいるでしょう。
在家信者で山伏をしている人は、サラリーマン・自営業をしながら週末にだけ山伏になるような人が多く、一定の期間だけ山伏をしているので、「職業(給料・収入)」は山伏以外の別の職業・仕事があるのです。
山岳修行をして霊力を獲得した山伏が、加持祈祷(お祈り)をすることによってお布施の形で収入を得ることはあるかもしれませんが、基本的に山伏をすることによって給料・収入があるわけではありません。
5. 山伏と天狗の関係は?
俗世を離れて深山幽谷に分け入っている山伏の独特な姿は、「天狗・カラス天狗の衣装」のモチーフになっていて、山伏と天狗は基本的に同じ格好をしています。
しかし、山岳修行で霊力を得た山伏が天狗に変化してしまうわけではなく、ハードな修行を終えた山伏が山から村里に下りてきた時に、村人から「天狗だ」と勘違いされやすかったのです。
天狗とは妖怪の類ともされる伝説上の生き物で、山伏と同じ格好をして、「赤い顔・高くて長い鼻・空を飛べる翼」といった特徴を持っています。
天狗の起源は「天を駆け巡る狗・犬(いぬ),流れ星」にありましたが、平安時代中期から山伏と似た人間型の天狗のイメージが浸透していきました。
人々は山を「異界」として恐れ、山で起きる怪奇現象を「天狗の仕業(しわざ)」として解釈しました。
しかし、「山岳信仰・山伏修行」の広がりと共に、同じ格好をした天狗は山伏と勘違いされることが増えつつも、厄除け・開運・無病息災のご利益がある「山の神」になっていったのです。
現在でも、高尾山・鞍馬山などでは「天狗信仰」が色濃く残っています。
6. 山伏は女性でもなれる?
山野(霊山)で起居してハードな修行をする修験道の山伏は、元々は女人禁制で男性のみしかなれないものでした。
山の神が女性であるから、女性が山に入ることを嫌うという迷信の影響もあり、山に女性が入ること自体を否定的に見る風潮が強く残っていたからです。
しかし、戦後日本では男女平等思想の普及もあり、次第に「女性の山伏・女性の修験道の修行体験」を認める霊山や寺院神社も増えてきています。
特にここ20~30年の新たな動きとして、山形県鶴岡市の出羽三山(月山・羽黒山・湯殿山)の「出羽三山神社」で行う女性の山伏修行「神子(みこ)修行」をはじめ、女性でも山伏になれる霊山・霊域が増えてきているのです。
もちろん、現在でも大峯山系をはじめ女人禁制としている霊山も多いので、山伏になりたい女性は事前にその霊山・周辺の寺社について調べたり、修行体験について問い合わせてみたりする必要があるでしょう。
7. 山伏の修行体験ができるスポット
山伏の修行体験ができる全国のスポットを紹介していきます。
日帰りで参加できる1日修行体験も多くあるので、気になる修行スポットがあれば問い合わせをして修行体験の内容について聞いてみましょう。
7-1. 三井寺(園城寺)の山伏の修行体験
天台寺門宗の総本山「三井寺(園城寺)」は、山岳信仰の重要な拠点の一つ「本山派」に属しています。
三井寺は天台系修験道の「根本道場」になっていますが、約半日間の日帰り修行体験をすることができるようになっています。
山伏の本格的な装束を着て「修験道の目的・歴史などの座学」を受けてから、滋賀県大津市と京都市山科区の境にある「長等山」に入山して、規程のプログラムに沿った修行体験ができます。
体験日数は「約半日」です。
三井寺(園城寺)の住所は「滋賀県大津市園城寺町246」で、予約申し込み(30日前まで)を「077-522-2238(三井寺)」で受け付けています。
希望日時に合わせた開催で「5~15名」で予約することができ、参加費の目安は約10,000円になっています。
7-2. 犬鳴山・七宝瀧寺の山伏の修行体験
大阪府南部の犬鳴山は、犬鳴川渓谷を抱えた水源の多い霊山として知られています。
犬鳴山には約48の滝があり、修験道では滝打ちの荒行が盛んに行われてきました。
修験道では奈良県の大峰山よりも古い歴史があります。
犬鳴山は「葛城二十八宿修験」の根本道場に指定されていて、七宝瀧寺の修験道修行一日体験では、犬鳴山の険しい行場を歩いて激しい滝の水に打たれる滝行を実際に受けることができます。
体験日数は「約半日」です。
犬鳴山・七宝瀧寺の住所は「大阪府泉佐野市大木8」で、予約申し込み(1週間前まで)を「072-459-7101」で受け付けています。
修行体験は毎月第3日曜日(12月~2月は除く)に開催されていて、参加費の目安は約2,000円で非常にリーズナブルになっています。
7-3. 大峰山の山伏の修行体験
奈良県南部の「吉野熊野国立公園」の一部を形成している大峰山は、古くから女人禁制の聖域・霊山として知られています。
修験道の修行道場としても有名な山ですが、宗教上の理由から現在も「女人禁制」が守られているので、大峰山の山伏の修行体験には「男性」しか参加することはできません。
体験日数は「1泊2日」になります。
大峰山(大峯山洞川温泉旅館組合)の住所は「奈良県吉野郡天川村洞川」で、予約申し込みを「074-764-0820」で受け付けています。
毎年開催されていますが、実施時期は不定期で大体「5~6月頃」に実施されています。
参加費の目安は約12,000円です。
7-4. 神峯山寺の山伏の修行体験
近畿地方の霊場の1つとして古い歴史を持つ「神峯山(かぶさん)」には、天台宗の寺院・神峯山寺があります。
神峯山は今でこそ修験道場としての知名度は落ちましたが、神峯山の山深い神秘的な景観には独特の霊威を感じることができるでしょう。
神峯山寺主催の体験修験は、10~70歳までの男女が参加できます。
体験日数は約半日です。
神峯山寺の住所は「大阪府高槻市大字原3301-1」で、電話予約ではなく「公式サイトの申し込みフォーム」から予約を受け付けています。
実施時期は「毎月第4日曜日(変更もあり)」で、参加費の目安は約3,000円です。
7-5. 出羽三山の山伏の修行体験
日本三大修験の山の1つである東北の「出羽三山(月山・羽黒山・湯殿山)」は、1990年代に一部で「修験道の女人禁制」が解禁されたことでも知られています。
出羽三山では、羽黒町観光協会が主体となって山伏体験塾を開催しています。
女性も参加可能なので、日本人から外国人まで人気のある山伏体験塾ですが、本格的な「地獄十界行」の一部を体験することができます。
体験日数は「日帰り・1泊2日・2泊3日のコース」から選ぶことができます。
出羽三山(羽黒町観光協会)の住所は「山形県鶴岡市羽黒町手向字院主南72」で、予約申し込みを「023-562-4727(羽黒町観光協会)」で受け付けています。
実施時期は不定期(年1回)で、定員に達し次第受付が終了するので早めに問い合わせて下さい。
参加費の目安は、2泊3日コースで約32,000円になります。
7-6. 日光修験道の山伏の修行体験
日光修験道場の拠点になっているのは「眺岳山験成就寺山王院」で、関東地方の人にとっては「栃木県・日光東照宮の観光地」としても馴染みが深くアクセスしやすい場所になります。
日光修験道の修行体験では本格的な山伏修行体験として、険しい山域の歩行・登山があり、夜明けの山頂を目指して登り、「ご来光」を眺めることができます。
体験日数は2泊3日です。
日光修験道(眺岳山験成就寺山王院)の住所は「栃木県鹿沼市日吉町」で、予約申し込みを「028-963-2901(日光修験道寺務局入峰係)」で受け付けています。
実施時期は、公式サイトのお知らせで告知していて(参加は事前予約が必須です)、参加費の目安は約10,000円になります。
7-7. 金峯山寺・大峯奥駈道の山伏の修行体験
奈良県の吉野山と熊野三山の中間地点にある「大峯奥駈道(紀伊山地の一部)」は世界遺産に認定されている霊場であり、山伏修行のメッカとして古来から信仰を集めてきました。
熊野山系の神々を詣でる「金峯山寺の大峯奥駈修行コース(約180km)」は、険しく長い山道を1日10時間以上のペースで踏破することを前提にしており、普段から登山・ランニングなどをやっているかなり体力に自信のある人でないと修行をやり終えることが難しいかもしれません。
断崖絶壁から命綱一本で逆さ吊りにされる「西の覗き(生まれ変わりのための荒行)」の修行体験もすることができます。
体験日数は「6泊7日」で、強靭な体力が必要な修行体験になります。
金峯山寺の住所は「奈良県吉野郡吉野町吉野山2416」で、予約申し込みを「074-632-8371」で受け付けています。
実施時期は、毎年6月頃に開催していますが不定期です。
体験日数が7日と長いため、参加費の目安も約70,000円と高額になります。
7-8. 高尾山の山伏の修行体験
東京都心からアクセスが良くて観光地としても人気の「高尾山」でも、山伏の修行体験をすることができます。
高尾山は手軽に登れる観光地の山として知られますが、「修験道の霊山・霊域」としての歴史も併せ持っています。
高尾山の山伏修行体験は、老若男女を問わず参加できるのが魅力ですが、参加受付の申込み方法が「ハガキ」のみの点には注意して下さい。
体験日数は「1泊2日」です。
高尾山信徒峰中修行会の住所は「東京都八王子市高尾町2177」で、予約申し込み先は「〒193-8686 八王子市高尾町2177番地 高尾山信徒峰中修行会係宛」となります。
電話での予約受付がなくハガキでしか申し込めません。
実施時期は、夏と秋の年2回(不定期)で、参加費の目安は約15,000円になっています。
まとめ
山伏は、煩悩・執着が渦巻く俗世間から離れて、霊山・山野に籠って寝起きしながら厳しい修行を行っています。
山伏は平安時代中期に発生した「修験道」の修行者が起源であり、「験者(げんじゃ)」と呼ばれることもあります。
山伏・験者の名称には「修行して験力(げんりょく)を顕す者」という意味があり、山伏はハードな修行を実践することで「超自然的な霊力」を身につけて、「加持祈祷・呪術」を行えると伝えられています。
この記事では、山伏についての基本知識を整理しながら、「山伏になる方法・山伏の修行・山伏の収入・山伏と天狗の関係・女性でも山伏になれるのか?」について解説しています。
全国各地にある山伏の修行体験ができるスポットも紹介していますのでぜひ参考にしてみて下さい。
まとめ
山伏は、煩悩・執着が渦巻く俗世間から離れて、霊山・山野に籠って寝起きしながら厳しい修行を行っています。
山伏は平安時代中期に発生した「修験道」の修行者が起源であり、「験者(げんじゃ)」と呼ばれることもあります。
山伏・験者の名称には「修行して験力(げんりょく)を顕す者」という意味があり、山伏はハードな修行を実践することで「超自然的な霊力」を身につけて、「加持祈祷・呪術」を行えると伝えられています。
この記事では、山伏についての基本知識を整理しながら、「山伏になる方法・山伏の修行・山伏の収入・山伏と天狗の関係・女性でも山伏になれるのか?」について解説しています。
全国各地にある山伏の修行体験ができるスポットも紹介していますのでぜひ参考にしてみて下さい。
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