リゲルマン効果とは、集団で共同作業を行うと「一人当たりの仕事量」が人数の増加に伴って低下していく効果のことです。
リゲルマン効果は、社会学・社会心理学において「社会的手抜き・フリーライダー現象・社会的怠惰」とも呼ばれています。
「リゲルマン効果」について、徹底的に解説していきます。
- リゲルマン効果(リンゲルマン効果)とは何か?
- リゲルマン効果を実証したとされる社会心理学的な実験
- リゲルマン効果・社会的手抜きが発生する原因
- リゲルマン効果の例:社会生活・仕事状況・都市空間におけるリゲルマン効果
- リゲルマン効果を防止する方法・コツ
- リゲルマン効果の地域性・特質:現実社会・人間関係におけるフリーライダー排除の仕組み
- まとめ
1. リゲルマン効果(リンゲルマン効果)とは何か?
リゲルマン効果(リンゲルマン効果)とは一人で作業するよりも集団で共同作業をした方が、「一人当たりの仕事量」が減っていく効果のことです。
20世紀前半のフランスの農学者であるマクシミリアン・リンゲルマンが行った社会学的な実験で、集団作業に参加する人数が増えれば増えるほど、一人当たりのパフォーマンスが低下することが確認できたことから「リゲルマン効果(リンゲルマン効果)」と名付けられました。
マクシミリアン・リンゲルマン本人によるリゲルマン効果の定義は、「参加人数が増えて集団が大きくなるほど、集団全体のアウトプットと個人のアウトプットの合計の差は拡大していく」というものです。
1-1. リゲルマン効果の別名は「社会的手抜き(社会的怠惰)・フリーライダー現象」
リゲルマン効果は複数(大勢)の人が参加する集団状況・共同作業において、「自分一人が手抜きをしたとしても全体の成果には悪影響がほとんど無いだろう」と思い込むことで発生すると考えられています。
こんなに沢山の人が一生懸命働いているのだから、自分一人だけが手抜きしても全体の結果(パフォーマンス)に悪影響はないだろうと思うことで発生することから、リゲルマン効果は「社会的手抜き(社会的怠惰)」とも言われます。
自分は手抜きをして集団全体の成果に依存することから、「フリーライダー現象(ただ乗り現象)」とも呼ばれています。
リゲルマン効果は社会的動物である人間が、無意識的に他者に依存していることを示唆しています。
2. リゲルマン効果を実証したとされる社会心理学的な実験
リゲルマン効果(リンゲルマン効果)は実際の社会生活・集団行動で観察されることも多いのですが、リゲルマン効果を実証したとされるいくつかの実験もあります。
リゲルマン効果に関連するマクシミリアン・リンゲルマンの実験とラタネとダーリーの傍観者意識の実験について紹介していきます。
2-1. マクシミリアン・リンゲルマンの綱引き実験
フランスの農学者マクシミリアン・リンゲルマン(1861年〜1931年)は、集団状況における1人ごとの作業・仕事のモチベーションとパフォーマンスに興味を抱いて、社会心理学的な実験を行いました。
リンゲルマンは複数の人から構成される集団(2〜8人の集団)に対して、「綱引き・荷車引き・石臼を回す」などの単純作業を指示して、それぞれの集団における「1人当たりの作業量(力の量)」を測定しました。
リンゲルマンの実験結果では、8人以上の集団で「個人の作業量(力の量)」は半分以下になる
その実験の結果、1人で作業している時の力の量を「100%」とした場合、2人では93%、3人では85%、4人では77%、5人では70%、6人では63%、7人では56%、8人では49%にまで「1人当たりの力の量(やる気・仕事量)」が優位に低下していたのです。
マクシミリアン・リンゲルマンは、集団を構成するメンバー(個人)の人数が多くなるほど、「集団のアウトプット(成果)」と「個人のアウトプット(成果)」の合計量の差は大きくなっていくと合理的に推論しました。
この集団の人数が多くなるほど、1人当たりのやる気や仕事量が落ちていくという心理効果を「リゲルマン効果」と呼ぶようになっていったのです。
2-2. ラタネとダーリーの実験1:「キティ・ジェノヴィーズ事件」に対する興味からの実験
1964年、ニューヨークで「キティ・ジェノヴィーズ事件」と呼ばれる婦女暴行殺人事件が深夜に起こりましたが、その時に約38人の人が事件の途中経過を目撃していたのに、誰も助けず誰も警察に通報しませんでした。
多くの人が事件の発生を知っていながら、どうしてキティ・ジェノヴィーズさん(1935-1964年)は見殺しにされてしまったのでしょうか?
当時のメディアは、都会における人情味の薄さや都会人の冷たさ・他者への無関心が事件の原因であると推論しました。
そして、この事件に興味を持ったのが、アメリカの心理学者のラタネ(Bibb Latane)とダーリー(John Darley)だったのです。
ラタネとダーリーの理論仮説は、「都会人の性格の冷たさ・無関心」ではなく「大勢の人が事件を見ていたからこそ誰も行動を起こさなかった」というものでした。
2-3. ラタネとダーリーの実験2:リゲルマン効果の社会学的な実験
アメリカの心理学者のラタネ(Bibb Latane)とダーリー(John Darley)は、「キティ・ジェノヴィーズ事件(1964年)」によって、「集団状況における他者に対する関心・救助行動」に関する社会学的実験を行いました。
学生を「2名・3名・6名のグループ」に分けて、それぞれの学生を相手の様子が見えないようにマイクとインターフォンが設置された個室に移します。
そして、グループ内で集団ミーティングを行わせて、その途中で1人が「心臓発作(パニック発作)」を起こした演技をした時に、他のメンバーはどう対応するかというものでした。
この実験の結果は、2名のグループではほぼ全員が相手の発作を心配して誰かを呼びに行ったり救急要請したりする救助行動を取ったものの、6名のグループでは約38%の人が発作を起こした人のために何の行動もしなかったというものでした。
人は集団を構成する人数が増えるほど、そのメンバーに対する関心や救助行動が低下しやすいというリゲルマン効果(傍観者効果)がこの実験で確認されたのです。
3. リゲルマン効果・社会的手抜きが発生する原因
集団を構成する人数が増えるほどに、「1人当たりの作業量+やる気(問題・課題への興味関心)」が低下するというリゲルマン効果(社会的手抜き)はなぜ起こるのでしょうか?この項目では、「リゲルマン効果(社会的手抜き)」が発生する原因について、分かりやすく説明していきます。
3-1. 個人の責任感・義務感の分散
リゲルマン効果(社会的手抜き)が発生する原因として、「個人の責任感・義務感の分散」が上げられます。
集団活動でその活動(仕事)に参加する人数が多ければ多いほど、これだけ沢山の人がいるのだから「自分が一生懸命にやらなくても他の誰かが代わりにやってくれるだろう」という責任感(義務感)の分散が起こりやすくなります。
大人数の集団の一員として動いていると、「自分自身に課せられた役割や責任」を軽く考えやすくなり、「自分以外の誰かが最後はきちんとやってくれる」という社会的手抜きが起こりやすいのです。
3-2. 多元的無知・他者の反応への同調
「多元的無知・他者の反応への同調」ということが、リゲルマン効果(社会的手抜き)が発生する原因の一つになっています。
多元的無知というのは、「周囲の大勢の人が行動していないのであれば、自分が特別に行動しなければならない緊急事態や問題状況は起こっていないだろう」と推測してしまう無知のことです。
多元的無知は、認知心理学における「正常性バイアス」とも重なっていますが、「みんなが急いで行動していないのだから自分も行動する必要はない」と社会的手抜きを決め込んでしまうことにつながります。
リゲルマン効果は、複数の他者の反応に反射的に同調して問題状況を無視する「多元的無知」によって起こるのです。
3-3. 他者からのネガティブな評価の懸念
リゲルマン効果(社会的手抜き)が発生する典型的な原因として、「他者からのネガティブな評価の懸念」を指摘することができます。
集団状況において誰も問題や危機を認識していない時に、自分だけが率先して行動することには「他者から批判・揶揄されるリスク」があります。
「自分だけがいい格好をしやがって」や「大した問題もないのに大げさに騒ぎやがって」などのネガティブな感情・評価を集団の他のメンバーから受ける可能性があるからです。
誰も行動していないのに自分だけが行動すると「他者からネガティブな評価を受けるかも知れないという懸念」が、リゲルマン効果を生んでしまうのです。
3-4. 自己イメージの保持・羞恥心と関係した体裁
「自己イメージの保持・羞恥心と関係した体裁」というのが、リゲルマン効果(社会的手抜き)が発生する原因の一つになっています。
人には「自分はこのような性格や信念を持った存在である」といった自己イメージがありますが、この自己イメージを集団の他のメンバーにも共有してもらいたいという欲求が働いています。
常識ある社会人の自己イメージには、「大勢の他者がいる前で取り乱したりしてはいけない+自分の勘違いで他人に迷惑や負担を掛けてはいけない」というものがあるため、よほど問題状況があることを確信できなければ行動に移せないのです。
勘違いして動いて自己イメージを崩したくない、他人の前で羞恥心を感じたくないという体裁が、リゲルマン効果の原因になっています。
3-5. 個人ごとの努力・献身が評価されない(報酬がない)環境
リゲルマン効果(社会的手抜き)が発生する代表的な原因として、「個人ごとの努力・献身が評価されない(報酬がない)環境」を上げることができるでしょう。
個人ごとの働きぶりによって収入が変化せず、頑張っている人も頑張っていない人も同じ収入しか得られないという社会主義的な環境では、人はリゲルマン効果の社会的手抜きをしやすくなるのです。
自分の努力や献身が集団に適切に評価してもらえない(=努力に見合う報酬を得ることができない)と思った時に、リゲルマン効果が発生しやすくなります。
4. リゲルマン効果の例:社会生活・仕事状況・都市空間におけるリゲルマン効果
リゲルマン効果は現実の社会や仕事、人間関係においてどのような形で発揮されているのでしょうか?この項目では、「社会生活・人間関係・仕事状況・都市空間におけるリゲルマン効果」の例について紹介していきます。
4-1. 都市の雑踏で人が倒れても多くの人は気にせずに歩き去る
リゲルマン効果の例として、「都市の雑踏で人が倒れても多くの人は気にせずに歩き去る」ということが上げられます。
数え切れないくらい大勢の人が行き交う東京・大阪・名古屋などの街の雑踏では、誰かが貧血や心臓発作でバタンと倒れたとしても、そこに一斉に人が救助のために集まるということはありません。
もちろん、倒れた人のすぐ近くにいたのであれば、最低限の心配の声かけや救急車・AEDの要請をしてくれる可能性はありますが、近くにいても「他の誰かが助けてくれるはず。
自分は急いでいるから」と無視して立ち去る人の方が多いのです。
これは、都市空間で起こりやすいリゲルマン効果として考える事ができます。
4-2. 大勢が定型の仕事をして個別に成果を評価されない会社では手抜きが起こる
「大勢が定型の仕事をして個別に成果を評価されない会社では手抜きが起こる」ということが、リゲルマン効果の一例になります。
職場・仕事状況で起こりやすいリゲルマン効果は、「人数が多い職場で、個別の仕事状況や成果が査定されない時」に起こりやすくなります。
自分が全力で一生懸命にやらなくても、「40〜70%程度の力」である程度の仕事をやっていれば誰にも叱責や否定をされないという時(給料も下がらないという時)に、リゲルマン効果が起こりやすいのです。
自分以外の大勢の同僚が結局、何とかして仕事を片付けるので、自分自身が必死に頑張るやる気までは出てきません。
4-3. 大人数で受ける大学の指名されない講義では居眠りする学生が増える
リゲルマン効果の典型的な例として、「大人数で受ける大学の指名されない講義では居眠りする学生が増える」ということがあります。
大学の講義・授業が退屈で眠たくなるという学生は大勢いますが、「少人数のゼミ・指名や討論のある講義」では退屈さを感じたり居眠りをしたりする学生はまずいません。
10名前後のゼミで居眠りをしていたら、自分が居眠りをしてさぼっていることが先生や友達に丸分かりになってしまうからです。
しかし、大人数で受ける一人一人をまともに識別できないような受身の講義では、リゲルマン効果が働いて、ついつい「自分1人が居眠りしていても分からないだろう」と思って居眠りをしやすくなるのです。
5. リゲルマン効果を防止する方法・コツ
集団を構成するメンバーの数が多くなると、「リゲルマン効果(社会的手抜き)」によって1人当たりのパフォーマンス(仕事量)が低下してしまいます。
このリゲルマン効果による、集団を構成するメンバー個人のモチベーションやパフォーマンス(仕事量)の低下はどうすれば防ぐことができるのでしょうか?「リゲルマン効果を防止する方法・コツ」について解説していきます。
5-1. 大人数の集団は、少人数のグループに分けて競争原理を働かせる
リゲルマン効果を防止する方法・コツとして、「大人数の集団は、少人数のグループに分けて競争原理を働かせる」ということがあります。
数十人、数百人以上のような大人数の集団で行動すると、どうしてもリゲルマン効果による社会的手抜きが起こるような状況に陥ってしまいます。
このリゲルマン効果による1人当たりのパフォーマンス低下を予防するためには、「集団を構成する人数を減らすこと」が有効になります。
大人数の集団を「少人数のグループ」に分けて、グループ間で成績・成果を競い合う競争原理を働かせることができれば、自然とリゲルマン効果は低下していきます。
5-2. 集団行動において一人一人の役割・課題を明確にして割り振る
「集団行動において一人一人の役割・課題を明確にして割り振る」ということが、リゲルマン効果を防止する方法・コツの一つです。
リゲルマン効果は、「こんなに沢山の人がいるのだから、自分1人が手抜きをしてさぼっても大丈夫だろう」という無意識的な他者依存の心理によって生み出されています。
そのため、リゲルマン効果を改善するためには、「集団に所属するメンバー一人一人の役割・課題」を明確化していく必要があるのです。
Aさんには文書の書類作成を、BさんにはExcelによる会計管理を、Cさんには取引先の担当者との交渉を、Dさんには文書・ワークシートの再チェックをというように、一人一人に対して「他人に任せられない明確な役割」を割り振ることによってリゲルマン効果を防ぎやすくなります。
5-3. 一人一人の仕事や努力の成果を適切に評価してフィードバックする仕組みを作る
リゲルマン効果を防止する有効な方法・コツとして、「一人一人の仕事や努力の成果を適切に評価してフィードバックする仕組みを作る」が上げられます。
リゲルマン効果(社会的手抜き)は、自分が頑張っても頑張らなくても評価・収入が変わらない時に起こりやすいので、「頑張れば頑張っただけ評価・収入が上がる仕組み」を作ることが大切なのです。
集団全体の中に個人の働きを埋没させて無視するのではなく、「一人一人の仕事・努力の成果」を適切に評価してフィードバックする仕組みを作ることができれば、リゲルマン効果は発揮されにくくなります。
5-4. 集団・他者に依存できないその人個人に向けた目的・使命を設定する
「集団・他者に依存できないその人個人に向けた目的・使命を設定する」ということが、リゲルマン効果を防止する効果的な方法・コツになります。
リゲルマン効果を生み出す心理は、「自分自身が必死にやらなくても、集団全体や誰かが自分の分もやってくれるだろう」という依存・責任軽視にあります。
その依存心理を改善するためには、「他の誰かが肩代わりすることができないその人だけに向けた目的・使命・やり甲斐(Aさんにぜひこの特定の目的を達成してほしい+Aさんの能力と経験があれば大きなやり甲斐を感じられる仕事がある)」を設定して上げることが有効なのです。
6. リゲルマン効果の地域性・特質:現実社会・人間関係におけるフリーライダー排除の仕組み
集団の人数が増えると個人の仕事量が減るというリゲルマン効果には、地域・人種ごとの特質があるのでしょうか?現実社会や人間関係では、リゲルマン効果を防ぐための「フリーライダー排除の仕組み」がありますが、それはどのようなものなのでしょうか?
6-1. リゲルマン効果の特質:地域・人種・文化圏による顕著な差異は実証されていない
リゲルマン効果は、日本・中国・韓国のような「儒教的な集団主義社会」とアメリカ・イギリス・フランスのような「キリスト教的な個人主義社会」のどちらでより強く働きやすいのかという疑問は昔から持たれていて、過去に何度か調査研究が行われました。
しかし、その結果はまちまちであり、「集団主義社会だから個人が社会的手抜きをしやすい」という結果もあれば、「個人主義社会でも集団環境ではリゲルマン効果が起こる」という結果もあります。
現時点では、地域・人種・文化圏によるリゲルマン効果の顕著な差異は確認できていないと言えるでしょう。
6-2. リゲルマン効果・フリーライダー排除の仕組み1:裏切り者発見モジュール
集団活動が生み出すインフラや利益にただ乗りして、自分の役割や責任を果たさない人・現象のことを「フリーライダー(ただ乗り)」といいますが、人間の認知機能・判断能力にはこういったフリーライダーを排除する仕組みが備わっているとされます。
フリーライダー排除のために遺伝的・知覚的に備わっている仕組みが、「裏切り者発見モジュール」という機能で、集団活動において「さぼっている個人(集団や他者に協力・貢献していない個人)」を反射的に見つけ出します。
フリーライダーでズルをしていると感じる個人を見つけやすい「裏切り者発見モジュール」があるので、大抵の人は極端に自分だけが社会的手抜きをすることは少ないのです。
6-3. リゲルマン効果・フリーライダー排除の仕組み1:社会共同体の村八分・仲間外し
リゲルマン効果・フリーライダーを防ぐ仕組みとして、「裏切り者発見モジュール」と組み合わされる「社会共同体の村八分(仲間外し)」があります。
現代では、村八分や仲間外しは道徳的・社会的に許されない差別やいじめとして認識されていますが、人類の共同体における村八分(仲間外し)の起源については、自分はまっとうに働かずに集団や仲間に一方的に依存するフリーライダーを排除するための仕組みであるという仮説があります。
フリーライダーとして集団や仲間を一方的に利用したり搾取しようとしたりしたら、村八分や仲間外しによって孤立させられるリスクがあるので、人は自分だけが社会的手抜きをすることは難しいのです。
まとめ
リゲルマン効果(社会的手抜き)の内容・原因・実例などについて徹底的に詳しく解説してきましたが、いかがだったでしょうか?
リゲルマン効果は集団規模が大きくなるほど社会的手抜きをする個人が増えるという効果ですが、その原因には「個人の責任の分散」「多元的無知(正常性バイアス)」などがあります。
「リゲルマン効果・社会的手抜き・フリーライダー」について詳しく調べたい時は、ぜひこの記事を参考にして下さい。
リゲルマン効果とは、集団で共同作業を行うと「一人当たりの仕事量」が人数の増加に伴って低下していく効果のことです。
リゲルマン効果は、社会学・社会心理学において「社会的手抜き・フリーライダー現象・社会的怠惰」とも呼ばれています。
「リゲルマン効果」について、徹底的に解説していきます。
1. リゲルマン効果(リンゲルマン効果)とは何か?
リゲルマン効果(リンゲルマン効果)とは一人で作業するよりも集団で共同作業をした方が、「一人当たりの仕事量」が減っていく効果のことです。
20世紀前半のフランスの農学者であるマクシミリアン・リンゲルマンが行った社会学的な実験で、集団作業に参加する人数が増えれば増えるほど、一人当たりのパフォーマンスが低下することが確認できたことから「リゲルマン効果(リンゲルマン効果)」と名付けられました。
マクシミリアン・リンゲルマン本人によるリゲルマン効果の定義は、「参加人数が増えて集団が大きくなるほど、集団全体のアウトプットと個人のアウトプットの合計の差は拡大していく」というものです。
1-1. リゲルマン効果の別名は「社会的手抜き(社会的怠惰)・フリーライダー現象」
リゲルマン効果は複数(大勢)の人が参加する集団状況・共同作業において、「自分一人が手抜きをしたとしても全体の成果には悪影響がほとんど無いだろう」と思い込むことで発生すると考えられています。
こんなに沢山の人が一生懸命働いているのだから、自分一人だけが手抜きしても全体の結果(パフォーマンス)に悪影響はないだろうと思うことで発生することから、リゲルマン効果は「社会的手抜き(社会的怠惰)」とも言われます。
自分は手抜きをして集団全体の成果に依存することから、「フリーライダー現象(ただ乗り現象)」とも呼ばれています。
リゲルマン効果は社会的動物である人間が、無意識的に他者に依存していることを示唆しています。
2. リゲルマン効果を実証したとされる社会心理学的な実験
リゲルマン効果(リンゲルマン効果)は実際の社会生活・集団行動で観察されることも多いのですが、リゲルマン効果を実証したとされるいくつかの実験もあります。
リゲルマン効果に関連するマクシミリアン・リンゲルマンの実験とラタネとダーリーの傍観者意識の実験について紹介していきます。
2-1. マクシミリアン・リンゲルマンの綱引き実験
フランスの農学者マクシミリアン・リンゲルマン(1861年〜1931年)は、集団状況における1人ごとの作業・仕事のモチベーションとパフォーマンスに興味を抱いて、社会心理学的な実験を行いました。
リンゲルマンは複数の人から構成される集団(2〜8人の集団)に対して、「綱引き・荷車引き・石臼を回す」などの単純作業を指示して、それぞれの集団における「1人当たりの作業量(力の量)」を測定しました。
リンゲルマンの実験結果では、8人以上の集団で「個人の作業量(力の量)」は半分以下になる
その実験の結果、1人で作業している時の力の量を「100%」とした場合、2人では93%、3人では85%、4人では77%、5人では70%、6人では63%、7人では56%、8人では49%にまで「1人当たりの力の量(やる気・仕事量)」が優位に低下していたのです。
マクシミリアン・リンゲルマンは、集団を構成するメンバー(個人)の人数が多くなるほど、「集団のアウトプット(成果)」と「個人のアウトプット(成果)」の合計量の差は大きくなっていくと合理的に推論しました。
この集団の人数が多くなるほど、1人当たりのやる気や仕事量が落ちていくという心理効果を「リゲルマン効果」と呼ぶようになっていったのです。
2-2. ラタネとダーリーの実験1:「キティ・ジェノヴィーズ事件」に対する興味からの実験
1964年、ニューヨークで「キティ・ジェノヴィーズ事件」と呼ばれる婦女暴行殺人事件が深夜に起こりましたが、その時に約38人の人が事件の途中経過を目撃していたのに、誰も助けず誰も警察に通報しませんでした。
多くの人が事件の発生を知っていながら、どうしてキティ・ジェノヴィーズさん(1935-1964年)は見殺しにされてしまったのでしょうか?
当時のメディアは、都会における人情味の薄さや都会人の冷たさ・他者への無関心が事件の原因であると推論しました。
そして、この事件に興味を持ったのが、アメリカの心理学者のラタネ(Bibb Latane)とダーリー(John Darley)だったのです。
ラタネとダーリーの理論仮説は、「都会人の性格の冷たさ・無関心」ではなく「大勢の人が事件を見ていたからこそ誰も行動を起こさなかった」というものでした。
2-3. ラタネとダーリーの実験2:リゲルマン効果の社会学的な実験
アメリカの心理学者のラタネ(Bibb Latane)とダーリー(John Darley)は、「キティ・ジェノヴィーズ事件(1964年)」によって、「集団状況における他者に対する関心・救助行動」に関する社会学的実験を行いました。
学生を「2名・3名・6名のグループ」に分けて、それぞれの学生を相手の様子が見えないようにマイクとインターフォンが設置された個室に移します。
そして、グループ内で集団ミーティングを行わせて、その途中で1人が「心臓発作(パニック発作)」を起こした演技をした時に、他のメンバーはどう対応するかというものでした。
この実験の結果は、2名のグループではほぼ全員が相手の発作を心配して誰かを呼びに行ったり救急要請したりする救助行動を取ったものの、6名のグループでは約38%の人が発作を起こした人のために何の行動もしなかったというものでした。
人は集団を構成する人数が増えるほど、そのメンバーに対する関心や救助行動が低下しやすいというリゲルマン効果(傍観者効果)がこの実験で確認されたのです。
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