「お客様から意表を突く質問がきたので、対応に困ってしまった」
「小早川秀秋が大谷吉継の意表を突いて松尾山から攻め込んだ」
こんな表現を見たことはありませんか?
また「いひょうをつかれた」という言葉を聞いて、「いひょう?」と漢字がすぐ浮かばなかったことはないでしょうか。
その言葉を知っていなければ、耳で聞いてもわからないし、字面で見てもピンときませんよね。
ここでは「意表を突く」という言葉の意味や類語、対義語や使い方を例文と一緒に見ていきます。
- 「意表を突く」の意味とは?
- 「意表を突く」の類語・言い換え
- 「意表を突く」に関する四文字熟語や似たことわざ
- 「意表を突かれる」原因
- 「意表を突く」の対義語
- 「意表を突く」「意表を突かれる」の使い方
- 「意表を突く」を使った例文
- まとめ
1. 「意表を突く」の意味とは?
「意表」は「いひょう」と読みます。
「まったく考えていなかったこと」という意味で、「意外」とほぼ同じ意味に当たります。
以前は「意表に出る」「意表の外に出る」という言い方もありましたが、今では目にすることも少なくなっており、「意表」という言葉が使われるのは「意表を突く」「意表を突かれる」という場合に限られるようになりました。
「意表を突く」とは「相手のまったく予期していないことをする」という意味です。
「意表を突かれる」とは、逆に「自分がまったく予期していないことを誰かにされてしまう」という意味を表します。
「意表を突く」と「意外」や「予想外」よりも「びっくりする」のニュアンスが強くなります。
2. 「意表を突く」の類語・言い換え
2-1. 「思いがけないことをする」
「意表を突く」をわかりやすく言うとこうなります。
よく似た言い方で「思いもよらないことをする」という表現もあります。
2-2. 「意外なことをする」
「意表」と「意外」はほぼ同じ意味です。
両方を組み合わせて「意表外」ということもありますが、これも同じく「思いのほかであること」「予想外であること」を指します。
2-3. 「とんでもないことをする」
これも同じく意外性を指しますが、ちょっと「非常識」というニュアンスが出てきます。
これがもっと相手に迷惑をかけるようなことであれば「とんだことをする」という言い方になります。
同じく悪い意味で意外なことをする場合、「滅相(めっそう)もない」という言葉が使われることもあります。
2-4. 「不意の行動を取る」
「不意」とは突然で思いがけないことを指します。
「意表を突く」が相手の「予想」に焦点を当てた言葉であるのに対して「不意」というと「突然」のニュアンスが強くなります。
2-5. 「だしぬく」
誰も思ってもないことをすることですが、「意表を突く」という表現にはない、悪い意味で使われる言葉です。
人をだましたり、他人の隙に乗じたりするときに使います。
よく似た表現に「抜け駆け」があります。
2-6. 「だしぬけに〜する」
動詞の形で使う「だしぬく」が悪い意味であるのに対し、名詞形の「だしぬけ」には悪い意味はありません。
「だしぬけに声をかける」というと、「意表を突いて声をかける」と同様に、「相手がまったく予想もしていなかったところで声をかける」ということになります。
2-7. 「いきなり〜する」
これも「意表を突く」と同じように使われますが、「意表」が相手の予想や心理状態に焦点を当てているのに対し、「いきなり」は行動の唐突さに焦点を当てた表現です。
3. 「意表を突く」に関する四文字熟語や似たことわざ
3-1. 「青天霹靂」
「青天霹靂」は「せいてんのへきれき」と読みます。
「晴れ渡った青空から、突然、何の前触れもなく雷の音が響く」という意味の故事成句です。
「意表を突く」のではなく「意表を突かれる」という場合に当てはまります。
たとえば、これまでずっと信頼していた人が、まったく予想もしていなかったことに、ある日突然裏切り行為を働いてきた…。
そんなときは「意表を突かれた」「青天の霹靂だった」と感じるのです。
おもしろいことに、英語でもまったく同じ表現があって "out of the blue"といいます。
青い空から突然雷が落ちてくる、ということで、意味も同じ「意表を突かれる」ということなのです。
3-2. 「慮外千万」
「慮外千万」は「りょがいせんばん」と読みます。
「まったく予想外なこと」という意味のほかにもうひとつ「非常に無礼なこと」も意味する場合があります。
「慮外」とは「思いがけないこと」、特に「こういうことが起こってはならない」というニュアンスがこめられるケースも多いようです。
「千万」は「程度がはなはだしい」という意味の言葉です。
「迷惑千万」「無礼千万」という形で使われます。
「まったく予想外なこと」という意味で、「意表を突かれる」と同様に使うことのできる四文字熟語です。
3-3. 「咄咄怪事」
「咄咄怪事」は「とつとつかいじ」と読みます。
これもまた「意表を突かれる」と同様に想像だにしなかったことが起こることですが、起こることに「奇妙なこと」「奇怪なこと」というニュアンスが加わります。
「とつとつ」という言葉は、口ごもりながらぽつぽつとしゃべる、という意味の「訥々」と、もうひとつ「咄咄怪事」の「咄咄」があります。
こちらは今日ではほとんど使われませんが、古文では、驚いたりくやしがったりする様子を表す言葉です。
もともとは舌打ちの音から来ています。
今の私たちには「チェッ」と聞こえる舌打ちですが、以前は「とつとつ」と聞こえていたのですね。
「咄咄怪事」とは、あまりに驚いて舌打ちするほどの奇妙なことが不意に起こった、という意味を表す四文字熟語です。
3-4. 寝耳に水
「根耳に水」は「ねみみにみず」と読みます。
正確には「寝耳に水の入るが如し(ごとし)」。
寝ているとき、不意に水の音が聞こえて驚く、という意味のことわざです。
まさに「意表を突かれる」という言葉にぴったり当てはまりますね。
3-5. 棚から牡丹餅
「棚から牡丹餅」は「たなからぼたもち」と読み、予想外の幸運がいきなり降ってくることを指します。
「意表を突かれ」て良いことが降りかかってくる、という意味ですね。
3-6. 藪から棒
「藪から棒」は「やぶからぼう」と読み、突然ものごとを行うさまをあらわす表現です。
思いがけなく藪から棒が突き出されたら驚きますね。
そんな風に「意表を突かれて驚いた」という心情に焦点を当てた言い回しです。
4. 「意表を突かれる」原因
私たちはなぜ「意表を突かれる」のでしょうか。
ここでは言葉の意味から少し離れて、私たちの心のメカニズムについて見ていきたいと思います。
4-1. 脳は働き者
私たちの脳は、あらゆるものごとを取り上げ、そのたびにいちいち認識し、分類し、検討しているわけではありません。
そうでなければ膨大な情報を処理する前に、私たちはすっかり疲れてしまうでしょう。
ものごとの大部分は、意識に上ってくる前に、一瞬で分類され、過去の経験をもとに振り分けられて処理されます。
また、不足する情報は、過去の経験で補うこともしています。
たとえば私たちの脳は、マスクをしたり、眼帯をしたりして、顔の一部が隠れている人であっても、一瞬で誰か見分けてしまいますが、それもこんな脳の働きによります。
4-2. 無意識の前提
悩み相談にこんな悩みが寄せられたとします。
「保育士になって7年目。トラック運転手のパートナーとは結婚して3年になります。結婚前に家事の分担を約束しました。
ところが最近になってパートナーは深夜の仕事もあり忙しく、家事はまったくしてくれません」
この話を聞くと、誰もが「保育士の妻がトラックの運転手の夫に対する不満を述べている」と考え、「保育士の妻」に対するアドバイスを考えることでしょう。
ところがこれは実は「トラック運転手」が妻(女性)で「保育士」が夫(男性)だったのです。
そのことを知った人のほとんどが「意表を突かれた」と感じるのではないでしょうか。
それは、その二人を直接には知らない人(情報が不十分な人)が、一般的な社会通念に基づいて「トラック運転手は男性の仕事だから夫のこと」「保育士は女性の仕事だから妻のこと」と、無意識のうちに前提にして、この話を考えるからです。
私たちの脳はこのように無意識のうちに、ものごとを選り分け、過去の経験や社会通念をもとに、暗黙の前提を作り上げてしまいます。
その自分がつくり出した枠の中で、私たちは話をしたり、聞いたり、考えたりしているのです。
4-3. 「意表を突かれた」ら脳はどうなる?
「トラック運転手と保育士の夫婦」の例を聞いて、多くの人は意表を突かれてびっくりすることでしょう。
ところがこれは、実際には知らない、顔を合わせることもない人の話ですから、ああそうか、意外だな、と思うだけで、すんなりと受け入れるでしょう。
ところが、自分に関することだったらどうでしょうか。
たとえばテストで、過去に何度も出て、今度も絶対に出ると思っていた問題が出ず、今までとはまったく違う形式の、見たこともないような問題が出て、不意を突かれたら、私たちの多くは頭が真っ白になってしまって、パニックに陥ります。
つまり、目の前の出来事を受け止めることができないのです。
これはどういうことかというと、意表を突かれ、過去の経験や持っている知識では対応できない出来事に直面すると、脳は自分自身の認知を否定しようとするのです。
とっさに考えることをやめてしまったり、「見なかったことにしよう」とパッとその場を離れたり、耳をふさいだりするのです。
パニックになるというのも、脳が働くのを拒否した状態だからなのです。
4-4. 「意表を突いてくる」人
ここで少し考えてみてください。
あなたが「意表を突かれた」経験として、どんなことがありますか?
東日本大震災などの自然災害のほかは、思いのほか「意表を突かれた」経験というのは、少ないのではないでしょうか。
逆に言うと、私たちの脳はそれほどまでに、意表を突かれることのないように、視覚や聴覚から受け取った情報を集め、分類し、予測する働き者だと言えるのです。
しかし、ある場面に限っては、「意表を突かれる」ことは非常に多く起こります。
それは大学入試や入社試験の際の面接の質問です。
試験官はあなたの「意表を突く」質問を、かならずといっていいほど仕掛けてきます。
それは「意表を突く」ことによって、準備していないあなたの素顔があらわになるからであり、それと同時に、とっさの対応力があるかないかが見て取れ、無意識的な脳の処理ではなく、意識的な脳の処理、別の言い方をすると「論理的思考」の能力が明らかになってくるからです。
「意表を突かれる」ことの少ない人は、こうした質問に動揺してしまい、混乱して答えられなかったりします。
もちろんそういう質問を想定したテキストもあるのですが、質問者が知りたいのは、あらかじめ用意された「正解」を知っているかどうかではなく、「素のあなた」がどんな人なのか、ということです。
そのことを考えると「意表を突く」こと、「意表を突かれる」ことは、心理学的に見ても非常に興味深いことです。
あなたも誰かのことを深く知りたいときは、「意表を突く」質問をしてみるといいかもしれませんね。
5. 「意表を突く」の対義語
ここからふたたび「意表を突く」という言葉に戻って、もっと言葉の意味を深めていきましょう。
5-1. 「予定通り〜する」
「意表」が「相手の思ってもみなかったこと」であるのに対し、「予定通り」はあらかじめ相手に「〜する」と知らせてあったので、ちょうど正反対の意味になります。
「意表を突いた行動」の対義語が「予定通りの行動」なのです。
- 「先方を驚かせようと思って、意表を突いて訪問してみた」
- (反対)「先方を驚かせるようなことがあってはならないので、予定通りに訪問した」
5-2. 「案の定」
「意表を突かれた」の対義語として、「(こちらが)予想していたとおりに」という意味で使います。
- 「思いがけない失敗に意表を突かれた」
- (反対)「危ないと思っていたら案の定、失敗した」
5-3. 「意にたがわず」
「思ったとおり」「考えていたとおり」という意味で「意にたがわず」という表現を使うこともあります。
「たがわず」を漢字で書くと「違わず」となります。
- 「全然努力していなかったのに、合格したのには意表を突かれた」
- (反対)「努力を重ねた結果、意にたがわず合格した」
6. 「意表を突く」「意表を突かれる」の使い方
「意表を突く」という言葉は、「誰もが思いがけないこと」という意味で、良い意味でも、悪い意味でも使うことができます。
たとえば「意表を突いた質問」であれば、政治家の記者会見などの場で、想定通りの質問が続く中、誰かが「意表を突いた質問」をしたとします。
その質問は、それまで誰もしてこなかったけれども、その政治家が抱える問題の本質をえぐるような良い質問であってもかまわないし、その政治家を辞職に追い込むような、政治家からすれば悪い質問でもかまいません。
また、一瞬何のことかわからないような質問であっても使うことができます。
ただ、誰も思いつかなかったのは、あまりにくだらないから、という質問であれば、「意表を突いた質問」ではなく「とんでもない質問」と言われるでしょう。
つまり「意表を突く」というのは、思いがけないことではあっても、全体の流れの中で、意味がないことではない、むしろ意義のあるものであることがわかります。
「意表を突く」が受身形になった「意表を突かれる」という言葉では、「予想外」や「意外」よりも、意外性がもっと強い印象を受けます。
「予想外」というと、「あらかじめ予想をしていたこととは違っていた」という意味ですが、「意表を突かれる」というと、予想すらしていなかったことが起こって非常に驚く、というニュアンスが出てきます。
「意表を突かれる」も良いことでも悪いことでも使われます。
「恋人が思いもかけないところで現れて、意表を突かれた」ということもできるし、「雨の少ない地域の突然の豪雨に、人々は意表を突かれた」という使い方もできます。
7. 「意表を突く」を使った例文
7-1. 例文1「意表を突く」
- 優勝がかかった大舞台で、3塁走者は意表を突いてホームスチールを試みた。
- 観衆の意表を突いたエンディングに、場内の拍手は鳴りやまなかった。
- 見る者の意表を突いたデザイン
7-2. 例文2「意表を突かれる」
- 会議の席に提出された報告書には、参加者全員が意表を突かれ、言葉もなかった。
- 彼のあまりの変わりようには意表を突かれた。
- 厳しい質問に意表を突かれ、立ち往生してしまった。
まとめ
ここでは「意表を突く」「意表を突かれる」という言葉の意味や類語、対義語や使い方、また、「意表を突かれる」のはなぜなのか、心理学的観点からも見ていきました。
「意表を突く」「意表を突かれる」という言葉は、今ではどちらかというと、話し言葉というより、書き言葉として使われることの方が多いかもしれません。
新聞や雑誌などではよく見かける表現です。
「思いがけない」や「意外」というより、もっと驚きが伝わってくる「意表を突く」という表現。
あなたも使ってみて、表現の幅を広げてみてくださいね。
「お客様から意表を突く質問がきたので、対応に困ってしまった」
「小早川秀秋が大谷吉継の意表を突いて松尾山から攻め込んだ」
こんな表現を見たことはありませんか?
また「いひょうをつかれた」という言葉を聞いて、「いひょう?」と漢字がすぐ浮かばなかったことはないでしょうか。
その言葉を知っていなければ、耳で聞いてもわからないし、字面で見てもピンときませんよね。
ここでは「意表を突く」という言葉の意味や類語、対義語や使い方を例文と一緒に見ていきます。
1. 「意表を突く」の意味とは?
「意表」は「いひょう」と読みます。
「まったく考えていなかったこと」という意味で、「意外」とほぼ同じ意味に当たります。
以前は「意表に出る」「意表の外に出る」という言い方もありましたが、今では目にすることも少なくなっており、「意表」という言葉が使われるのは「意表を突く」「意表を突かれる」という場合に限られるようになりました。
「意表を突く」とは「相手のまったく予期していないことをする」という意味です。
「意表を突かれる」とは、逆に「自分がまったく予期していないことを誰かにされてしまう」という意味を表します。
「意表を突く」と「意外」や「予想外」よりも「びっくりする」のニュアンスが強くなります。
2. 「意表を突く」の類語・言い換え
2-1. 「思いがけないことをする」
「意表を突く」をわかりやすく言うとこうなります。
よく似た言い方で「思いもよらないことをする」という表現もあります。
2-2. 「意外なことをする」
「意表」と「意外」はほぼ同じ意味です。
両方を組み合わせて「意表外」ということもありますが、これも同じく「思いのほかであること」「予想外であること」を指します。
2-3. 「とんでもないことをする」
これも同じく意外性を指しますが、ちょっと「非常識」というニュアンスが出てきます。
これがもっと相手に迷惑をかけるようなことであれば「とんだことをする」という言い方になります。
同じく悪い意味で意外なことをする場合、「滅相(めっそう)もない」という言葉が使われることもあります。
2-4. 「不意の行動を取る」
「不意」とは突然で思いがけないことを指します。
「意表を突く」が相手の「予想」に焦点を当てた言葉であるのに対して「不意」というと「突然」のニュアンスが強くなります。
2-5. 「だしぬく」
誰も思ってもないことをすることですが、「意表を突く」という表現にはない、悪い意味で使われる言葉です。
人をだましたり、他人の隙に乗じたりするときに使います。
よく似た表現に「抜け駆け」があります。
2-6. 「だしぬけに〜する」
動詞の形で使う「だしぬく」が悪い意味であるのに対し、名詞形の「だしぬけ」には悪い意味はありません。
「だしぬけに声をかける」というと、「意表を突いて声をかける」と同様に、「相手がまったく予想もしていなかったところで声をかける」ということになります。
2-7. 「いきなり〜する」
これも「意表を突く」と同じように使われますが、「意表」が相手の予想や心理状態に焦点を当てているのに対し、「いきなり」は行動の唐突さに焦点を当てた表現です。
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